神野紗希副審査委員長 目ざせ入賞 ワンランク、ツーランクupのポイント

 一茶まつりでは、入賞の中に、特選・秀逸・入選と、3つの段階があります。賞に入った時点で、どの句も見どころがあり素晴らしいのですが、入選よりも秀逸、秀逸よりも特選に昇格するには、何が必要なのでしょうか。

 

余別川体きずつけサケのぼる    享俊さん

 

 もし、余別川という具体的な地名がなく〈川の中体きずつけサケのぼる〉だったとしても、サケが必死に命を削って、産卵しに上流を目指すさまは、後半十二音で伝わります。でも、なんだか迫力に欠けますよね。余別川という実名を出すことで、このサケは実在するんだ、作者は本当に目撃したんだ、という臨場感が増します。ドキュメンタリーとしての迫力が出てくるのです。

 

青あらし帯しめなおす二分前    眞子さん

 

 もし、最後の五音が〈青あらし帯しめなおす試合前〉だったらどうでしょう。それでもじゅうぶん、帯をしめなおし、気合を入れなおして、次の試合にのぞむ緊張感が、ざあっと青葉を渡る強い風、夏の季語「青あらし」によって伝わってきます。しかし、具体的な時間を「二分前」と数字であきらかにすることで、その緊張感がより強まって、心臓の鼓動まで聞こえてきそうです。

 

ピカドンを無言で語るワンピース    真彩さん

 
 
 「ピカドン」とは、原子爆弾のことです。「無言で語る」という一見矛盾した表現が目をひきますが、この句の迫力は「ワンピース」の具体性にあります。ワンピースからは、それを着ている女の人が思い浮かびます。かつて約七十年前に経験したおそろしい原爆体験に、口を閉ざす一人のおばあさんが、無言でそこにいることが、すなわちピカドンを語ることになるのです。すずしげなワンピースに、うだるような夏の暑さを思います。

 どの句も、その句をかがやかせるポイントが、二つ以上かさなりあって、一句の世界をリアルに立ち上げています。いいところが二つ以上あること。これがまずは大切です。この季語のえらび方がいいよね、うんうん、二分前ってどきどきするよね、分かる、あ、あとここも……というふうに、語りたくなる俳句、語りつくせない俳句が、人の心に残る名句となってゆきます。

 さらに、二つ以上の魅力がかさなりあった結果、リアル=臨場感があること。ここもポイントです。つむがれた言葉の世界をぞんぶんに味わってもらうには、作者が体験した一度っきりの「いま、ここ」を、読者にもいっしょに体験してもらうのが一番です。そのために、たとえば、具体的な描写―地名や数字や人物など―が書きこまれていると、句を読む人の感覚を、より強く刺激する、リアルな俳句となります。

 

水質調査鮎はまぶしいはら見せる    純平さん

 

 「水質調査」というかたい言葉が、俳句に使われていることに、まずびっくりします。さらに、鮎のからだの中でも、具体的な「はら」に着目したことで、いきいきと体をくねらせ光の中におどりでる、鮎の躍動感がつたわってきます。「見せる」という、自分から積極的に行っているような表現も、鮎の生命力を感じさせる後押しとなっています。鮎が元気に暮らす川。水質調査の結果も、上々でしょう。鮎のいきいきした姿にホッとします。

 

卓上の地球儀ながめ夏終わる    泰輔さん

 

 机の上に置かれた地球儀をながめながら、今年の夏をふりかえっています。「見つめ」ではなく「ながめ」ですから、ぼんやりと、夏や世界の全体を俯瞰しているのです。なぜ作者は地球儀を見つめているのでしょう。まだ行ったことのない国へのあこがれを育てているのかもしれないし、世界のあちこちでつらい思いをしている人たちに思いをはせているのかもしれません。でも、〈まだ行かぬ国がたくさん夏終わる〉とか〈卓上で平和を思い夏終わる〉とか、気持ちを言葉にしてしまうと、なんだかうすっぺらくなってしまう気がしませんか。地球儀という具体的なものをとおして、作者の気持ちをいろいろに想像できるから、奥が深い俳句になったのです。

 人とはちがう、ユニークな個性をもっている点も大切です。

 

氷海のアザラシカメラへ一歩ずつ    侃冬さん

 
 
 うちわやひまわりなど身の回りの夏らしいものを詠んだ句が多い中で、氷海のアザラシを詠んだ人は他にいませんでした。しかも、このアザラシは、かまえているカメラへ、一歩ずつ近づいてきます。ひといきに寄らないのは、警戒しているのか、それとも堂々としているからか。場面と行動を具体的にえがくことで、アザラシと人間の心の中を、いろいろ想像できる俳句となりました。

 

ペンギンのおよぐ水にもさくらうく    結月さん

 
 
 このペンギンは、日本の動物園のペンギンです。なぜなら、さくらと組み合わせられているから。寒い海に生きるペンギンと、日本で花を咲かせる桜との出会いが、とてもユニークです。ペンギンのプールの青と、さくらのピンク、色の組み合わせもパステルカラーでいかにも春らしいですね。ペンギンも水中で、浮いた桜の花びらを見て、お花見をしているでしょうか。

 

はりきって後部座席のうきわゆれ    美乃さん

 

 後部座席につんだうきわが、車の揺れるたび、ゆれています。それを「はりきって」いると見立てたことで、これから海やプールへゆく作者のわくわく感がぞんぶんに描かれました。うきわという季語の、まだ使われていない一場面をとおして、ある夏の一日全体を、いきいきと想像させるのがすごいですね。

 俳句は、たった十七音しかありません。その吹けば飛ぶような小さな小さな詩の前に、どれだけ長く、読者がたたずんでくれるか。読んだ人に、その十七音のことを、どれだけ長く考えてもらえるか。そのために、表現を工夫し、読者の想像力をひきだすことができれば、きっとその俳句は、だれかの記憶にのこる作品となるでしょう。自分の「いま、ここ」を、友人や家族や未来の自分とシェアするつもりで、十七音の言葉に切り取ってみてください。その切り口がみずみずしいほどに、忘れられない一句となるはずです。